続・スタンダード

 ゴール前に立てば、一斉に自分に向かって入り乱れる相手方の殺気立った攻撃に「サッカーを楽しむ」なんて余裕はないけれど、やはりサッカーは面白い。
日向さんの誕生日プレゼント(だよな?)で久しぶりにプロの試合を観戦できて、俺はホクホクだった。帰りの電車を降りて、行き慣れた道をゆっくり歩きながら、興奮冷めやらぬといったカンジで試合内容を思い出しては熱く語り合った。
 ただ、俺はどうしてもディフェンスライン、日向さんはフォワードに目がいってしまうせいか、見ている場面が全然違っていて、そのズレがなんだかおかしくて笑えた。
来年の今頃は、選手権できっと天皇杯どころではないんだろうな‥なんて、春からの高校生活を想像するとちょっとピリっとなる。
冬の夜は早い。二人とも時計を持っていなかったけど、駅を出た時は4時半だったからそろそろ5時も近いといったところで、辺りは薄暗くなってきていた。
 もうすぐいつもの曲り角という時。

「なあ、夜は時間、決められてんのか?」
「ううん、別に。」
「誕生祝いとかさ、みんなでしてくれるんじゃねえの?」
「…いや、たぶん…。ウチ、今そういうムードじゃないっていうか…。」

 家のゴタゴタをあまり詳しく話したくなくて語尾をにごしてしまった。せっかく日向さんとサッカー見れてイイ気分なのに、ぶち壊したくないものな。
日向さんも俺が話したがらないことに首を突っ込むタチじゃないので、ふーんと言って流した。

「じゃあさ、ちょっと散歩してくか。」

 そう言って俺の手をパッと握った。わ…と思い気を取られてる隙に一個手前の道を右に曲がる。昔よくジョギングしてた河原への道だ。日向さんは新聞配達で、俺は胴着を着たまま時々一緒に走ったっけ。
ギュッと手を握る日向さんの横顔はなんだか照れてるようで、何も言わず、俺の顔も見ずにまっすぐ前を見て歩いていく。最初はひんやりしていた手がだんだん暖まってきて、俺は言い様のない幸せを感じた。
たまに犬の散歩をする人とすれ違うくらいでほとんど人通りはなく、人影が見えると手を離しては、通り過ぎるとまたどちらからともなく手を繋ぐ。
 そんなことを3度ばかりくり返した時、ようやく日向さんが俺を見た。目が合えば心臓が高鳴る。
すっかり日が落ちて暗くなったせいか、イケナイ欲求が頭をもたげた。

『もっと触れたい』

 裸で触れ合ったあの夜のことが忘れられない。思い出しただけで体が熱くなる。
実は昨夜も日向さんが帰った後、たまらなくなって自分でしてしまった。だって‥‥ほんとはキスだけじゃ足りなかったんだ。あの時父さんが声をかけなければ、部屋に引っぱり込んで無理矢理誘ったかもしれない。
日向さんはこういう俺に呆れるだろうか。キライになったりしないだろうか。
 スケベな自分に嫌気がさしてちょっと落ち込んでいると、日向さんがぼそりと言った。

「…あのさ、この先にホテルあるの、知ってるか。」

「ホテル‥‥?」

 こんなところにホテルなんかあったっけ。あれこれと記憶を辿っているとひとつだけ思い当たる建物が頭に浮かんだ。

「…って、あの…?」
 橋から続く階段を下りてちょっと陰気な狭い道を入ったところに、なんだか怪しい名前の建物があった。小学生だった俺には、それが何の建物かイマイチ分からなくて、ただ自分には縁のない場所だということだけはなんとなく直感した。でも今ならそれがなんなのか、ハッキリと分かる。ようするに、大人のカップルが人目を気にしつつも吸い込まれるように入っていき、2~3時間すればスッキリした顔で出てくるというアレだ。

「あそこ、7時まで2時間3000円なんだって。」
「…なんでそんなこと知ってんの?」
「あのホテルにも新聞配ってたからさ。料金表とか、イヤでも目に入っちまうんだよな。」
「ふ、ふーん…。」
「入ってみるか?」
「え…えっ!?」

 思わず声が裏返ってしまった。は、入るって!俺たち中3なんだけどっ?世間ではまだまだ子供扱いのガキんちょだってのに、ラブホテルに入ろうなんて…!
一人うろたえて手のひらに汗がにじんできた。そりゃあ日向さんとずっとこうして二人きりでいたいけど…。でも、でも。

「あーいうとこって今は殆どセルフサービスなんだってさ。入口さえ誰にも会わなきゃ平気だって。」

 繋いだ手をグイと引っぱって耳打ちする。なんでそんなことまで知ってるのだろう。まさかすでに誰かと行ったことがあるのだろうか。急に不機嫌な顔になった俺に、疑いを持たれたと気付いたのか、日向さんは慌てて付け足した。

「新聞屋の先輩が話してんの、聞いただけだってば。実際どうだか知らないけどさ…。」

 そしてちょっとため息をつくと、

「ゴメン…、なんか俺、とんでもなくヤラシイよな、はは。」

 そう言って日向さんはしばらく黙り込んだ。なんだか落ち込んでるみたいだ。俺自身、疑り深くて嫉妬深い自分がちょっとイヤになった。好きだと言ってもらえたとたん、ものすごく欲張りになってしまったみたいだ。

「いいよ、入ろう。」
「…え。」

 それだけ言うのが精一杯だった。恥ずかしいやら、怖いやら。でも、嬉しい…。ラブホテルに入ろうということは、直球で「セックスしよう」ってことだ。即物的ではあるけれど、それだけ日向さんは俺を求めてくれてる。そう思うと、たとえどんなキケンな橋を渡っても応えなくちゃ、なんて。
受け身な態度を取りながらも、ほんとを言えば俺の方が日向さんを押し倒してしまいたいくらいジリジリしていた。
体が日向さんを欲しがっている。キスして抱き合って、裸になって…。これからの自分達を想像すると、体が火照ってしょうがない。
こんな自分を悟られたくなくて、俺は大きく深呼吸した。
 冬の夜の冷たい空気の力を借りて、駆け上がりそうな体温をちょっとだけセーブした。

 2時間3000円…中学生の俺達にとっては決して安い金額ではなかったけど、今を逃したらきっと寮に戻るまで日向さんとこうして二人きりになんてなれない。
なんせウチは本家だから、暮れから三ヶ日にかけてやたらめったら客が来るのだ。当然母さんはてんてこまいで、いつもは穏やかなあの人もこの時ばかりは人使いが荒くなる。お使いやら皿洗い、配膳にお酌、なんだってさせられるのだ。
別にそれがイヤでしょうがないってわけじゃないけど、ぶっちゃけ寝正月なんてのにも憧れる。
大人になって一人暮らしを始めたら、正月はどこにも行かず、コタツの一部のように丸一日を過ごしてみたい。
 とは言えサッカー選手になって天皇杯で決勝まで勝ち進むようになれば、そんなことも言ってられないんだろうけど…。

 2時間、というのがやけにリアルで卑猥な気がした。
さっきから日向さんは一言もしゃべらず、その建物に向かって黙々と歩き続けた。
薄暗い道に入ってしばらく行くと、そのホテルが見えてきた。
昔見た印象とはちょっと違っていて、壁に紫色のライトアップなんかがされてある。時代とともに明るくポップなカンジに改装したみたいだ。‥‥のつもりなんだろうけど、なおさら怪しい気がする。
さすがにここまで来るとちょっとはためらう。料金表の下の方に小さく「18歳未満は入室おことわり」と書いてあった。黙ってつっ立ってると、日向さんが手をギュッと握って力強く引っぱった。

「時間ねえし、行くぞ。」

 艶かしく紫に照らされたつい立ての壁の奥にある、ゴワッとした暖簾をくぐって、俺達は大人の世界へ足を踏み入れた。

幸い入口には誰もいなくて、日向さんが言う通り全てがセルフサービスだった。
  部屋のコンセプトを映したパネルがあり、その横にラーメン屋の食券販売機のようなものが設置されている。いくつかの部屋は入室中で、ランプが点灯している空き部屋をぼんやりと眺めた。

「おい、呑気に選んでんなよ。人が来ねえうちに…」

 日向さんに急かされてハッとなる。そうだ、俺たちは入室お断りの中学生で、おまけに男同志なのだ。誰かに見られたら一度ならず二度は確実に仰天される立場である。

「う、うん、えっと…」
「テキトーでいいよ。」

 そういって料金口にすばやく金を入れると、ホントにテキトーにボタンを押した。
ピーという音とともにカードキーが吐き出された。
日向さんが選んだのは「スタンダード」。まあ、当たり障りのなさそうな普通の部屋っぽくて俺はホッとした。
パネルを見ているとなんだか怪しい名前のついた禍々しい部屋なんかもあって、面白そうだけどちょっとどうかな、なんて思ったんだよな。「ジャングル」とか「エジプト」とか…。
 キーを取ると俺たちはエレベーターへ乗り込んだ。

「はあ、ドキドキした。」
「うん…。」

 5人程しか乗れない狭いエレベーターの中。ほんの数秒の密室にもかかわらず俺たちは一気に甘い空気に取り巻かれた。
どちらからともなく見つめあうと唇を寄せた。
 軽く触れるだけのキス。もうそれだけで心臓が爆発しそうなくらいだ。昨夜の濃厚なキスに比べたら淡白なものだったけど、やっと二人きりの時間をこれから過ごせるんだと思うと、ちょっと勿体つけたいような気分だった。
啄むように数回キスを交わしたところで、エレベーターが止まった。
カードにある部屋番号を見つけると、ドアノブの上部に差し込んだ。カチリと音がしてドアが開く。部屋に入るとすぐのところにカードの差し込み口があって、そこにカードを入れると部屋がパッと明るくなった。
 こういうのは以前、海外遠征でホテルに泊まった時に経験がある分、戸惑うことはなかった。そうじゃなかったら「前にも来たことあるのか」なんて変に勘ぐってしまうかもしれない。
日向さんとこういうふうになってから、自分がものすごく嫉妬深い性格だったってことに気付かされた。これから先、どんどん自分のヤな部分を発見しては自己嫌悪に陥るにちがいない。人を好きになるって、結構やっかいだ。

「ベッド、すげーでかいぜ。」

 肘でツンと突いて日向さんがニヤッと笑った。
ほぼ部屋中と言っていいくらいのデカいベッドが目に飛び込む。パステル調の緑色のシーツで爽やかなカンジだが、ベッドの横にはガラス張りの部屋‥‥と思ってよく見ると一部分だけスリガラスで目隠しされたバスルーム。中には丸くて大きめの浴槽と、ウワサに聞くピンクのスケベ椅子。はっきり言って丸見えだ。そして壁際にはなんの装飾もないシンプルなドレッサー。
まさにセックスをする為だけに作られた部屋に今、俺と日向さんはいた。
「上着、脱げよ。」
 そう言って日向さんが、クローゼットもない部屋の壁に取り付けられたフックからハンガーをひとつ取ってよこした。
上着のボタンに手をかけた時、初めて自分が震えていることに気付いた。笑えるくらいブレて上手く外せない。空手の昇段試験の時だって、こんなに緊張したことなかったのに…俺はなんだか情けない気分になってきた。
さっさとジャンパーを脱ぎ捨てて、ドレッサーの椅子にポイッと掛けた日向さんが、そんな俺を見て歩み寄ってきた。

「貸せよ。」

 ひとつひとつボタンを外していき、スルリと肩から脱がせてくれた。その感覚にぞくりとする。握りしめていたハンガーを取り上げるともうどうでもいいといった風に、上着もろとも床に放り投げた。
その動きを、緊張した頭でぼんやり眺めているといきなり抱きすくめられた。
ああ、日向さんの匂い……。

「若島津…」
「…うん…」

 急速に体が熱くなる。抱き返そうと背中に手を回しかけたら、それより先に口付けられた。もう寸部の隙もないくらい体を合わせて、息も出来ないくらいだ。ようやく日向さんの体を手のひらで捕らえると、そのキスに精一杯応えた。
たったこれだけのことで、俺はもうおかしくなりそうだった。
「狂おしい」ってこういうことなのかな。もうめちゃくちゃにされてもいいなんて思えてしまう。そして、痛いくらいに抱きしめられてる自分に酔ってしまいそうだ。
なにも知らなかった頃は、正直こんな行為は不潔なものだと思っていた。他人の舌を吸ったり舐めたり、アソコに触れたりするなんて不衛生なこと、俺には耐えられないかも、なんて。
でもこうして一度知ってしまったら、それも相手が日向さんなら、もう毎日だって触れていないと体が治まらない気がした。こんな俺って、もしかして淫乱なのだろうか。
 ギシッと音を立てて、俺たちはベッドに沈んだ。シャツを脱がし、ズボンのファスナーを下ろし、たどたどしく脱がせ合いながらいつしか生まれたままの姿になっていた。
直に触れる日向さんの肌が熱い。恥ずかしさもあって息を詰めていたけど、体中を駆け巡る興奮に、いつのまにか呼吸が荒く乱れてしまった。
汗ばんだ手のひらで全身をまさぐられ、時々、うっとりと腰に響く独特の声で名前を呼ばれた。

「ハア…若島津…」
「あ…ア…」

 触れあわせただけの下半身で、お互いのアソコがもつれるように絡み合った。どちらからともなく溢れ出した体液がヌルヌルしてキモチイイ‥‥。
日向さんは腰を擦り寄せながら、せわしなくキスをしかけてくる。頬や瞼や、耳たぶ、唇…。求めるように唇を開くと、ふと動きを止めて顔を上げた。

「日向さん……?」

 上気した顔で、でもなぜだか神妙な面持ちで俺を見つめながら、少し不安気に呟いた。

「…俺だけが欲しがってるんじゃないよな…?」
 今更そんなこと聞くなよって思ったけど、考えたらまだ俺、日向さんに「好き」って言ってなかった。
雰囲気に飲まれて勢いでここまで来てしまったけど、それって大事なことだよな。
そう思っていざ口に出して言おうとするけど、なかなか言葉が出てこない。なんて言えばいいんだろう‥‥どう言ったら、今、日向さんとこういうことになってる現実が、どれほど俺を舞い上がらせてるかを伝えられるだろう。
言葉に詰る俺を見て、だんだんと日向さんの顔が曇っていった。
ちがう、そうじゃないのに。こんなに好きなのに‥‥。
 何も言えないまま、俺は泣いてしまった。
口をヘの字に曲げて、しゃくり上げそうになるのを必死でこらえて。

「若島津…。」
「ごめん…ちがう…俺、俺は……」

 日向さんの首に腕を回すと、思いっきり抱きしめた。
好き。大好き。回りくどい言葉も理屈もジャマくさい。キャプテンだろうと、男同志だろうと、俺はずっと日向さんが好きだったんだ。常識に捕らわれて、無意識に頭の中から消し去ったつもりでいたけど、やっぱりそんなの無理なんだ。好きってキモチを無くすことなんて絶対できない。
 そして、その日向さんに抱き締められる悦びを知ってしまった。もう理性なんて保てるわけがない。
俺は力任せにしがみついて、日向さんの太腿に足を絡めた。

 下腹に当たる日向さんのがグンとデカくなった気がした。
汗ばんだ手のひらにいっそう力がこもる。噛みつかんばかりにキスされた。
普段の部活やなんかで見る日向さんからは想像もできない、エッチでいやらしくて色っぽい仕種に俺はメロメロだった。
日向さんも「男」なんだ。セックスの相手が目の前にいれば、こんな風に変わるんだ。
切羽詰まった息遣いや、俺の体中を犯すように見つめる目。こんな日向さんを俺以外は誰も知らないんだって思うだけで、もう全身が疼いてしょうがない。
たっぷりと溶け合うようなキスを交わしながら、次はどんな快楽をくれるのか、腰を揺らしながら催促する。

「おまえ、すげえエッチ…」
「…んなこと、ない。」
「もっとやらしいことしてやろっか。」
「…え?」

 ニヤッと笑うと、日向さんの唇が首筋から胸元にかけてジワジワと下りていった。乳首を舌先でクルクルと刺激され、思わず背中が反ってしまう。

「アッ…ん」

 胸をいじくられて感じるのは女だけかと思ってたけど、平らな胸のツブツブがこんなに敏感だなんて知らなかった。さんざん弄られ「チュウ」と音を立てて吸われると、下半身までむずむずしてきてアソコからだらしなく液が漏れてきた。俺はガマンできなくなって、右手をそこに伸ばした。もう、一気に扱いてイッてしまいたい……。
すると日向さんがその右手首をむんずと掴んでベッドに押し付けた。

「今、キモチよくしてやるからさ。」

 そう言って俺の太腿を乱暴に開くと、股間に顔をうずめた。

「え…っ」

 日向さんはためらいもなく、俺のアソコの先っちょをペロリと舐めた。

「わわっ!ダ、ダメ!!そんなとこっ汚いってば!」
「キレイだぜ?おまえの…すげえデロデロになってるけど。」
「だって!…シャワー浴びてないし…。」

 ホントは浴びたかったんだ。せめてシャワーくらい。
実を言うと、家を出る前に念入りに風呂には入ってきた。それでもこうして抱き合うのならもっとキレイな体にしておきたいと思うのは当然だ。でもいざとなると、そんな余裕さえもなくなっちゃうなんて。そんな時間さえも勿体ないなんて思ってしまう。性欲って恐ろしい…。
洗ってもないところを舐められるってことにも抵抗あるけど、それよりもなによりも、至近距離で自分のモノを見られるという羞恥に耐えられそうもない。すでに2度目のセックスとはいえ、今だ勃起したトコを見られるのは恥ずかしくてしょうがないのだ。

「大人のセックスじゃこんなのはフツーなんだぜ。」

 指先で俺のモノをいじりながら日向さんが言う。
そんなこと言ったって‥‥俺まだ大人じゃないし…でも、ああ…キモチいい…。
なんで人の手でされるとこんなに感じるんだろう。初めての時はちょっと触られただけですぐにイッちまったんだよな。
あれって結構バツが悪い。世間で言う「早漏」ってやつだ。だけど自分でオナニーするのとは全然、段違いにキモチいいんだから仕方がない。
 あ…なんか、もう、何も考えられなくなってきた…。

「ハア…ん…日向さ…」
「…舐めていい?」
「う、んっ。ハア…も、いい。どうにでして…。」

 この俺がこんなセリフを吐くなんて。
でも俺の下半身はもうすっかり俺の頭から切り離されて、一人歩きを始めてしまった。止めようにも止まらない。
日向さんは満足気に笑うと、パックリと俺のアソコを根元まで銜えた。

「あァ、あ…っ」

 まるでわざと聞こえるようそうしているのか、ねっとりとしたいやらしい音をたてながらしゃぶられた。恥ずかしいやら、キモチいいやら、俺はもう気が変になりそうだった。
自制がきかなくて思わず腰を揺らしてしまった。すると日向さんも予期せぬ動きに慌てたらしく、歯先がちょっとだけ当たった。

「イタッ…!」

 ゴメン、とナニを頬張ったままモゴモゴ言うと、今度は太腿を押さえていた手をゆっくりとずらして房を揉みしだき始めた。

「んっ…」

 足先がシーツをかき乱すようにひとりでに動いてしまう。
頑張ったけど…なんとかもたせたけど…も、もうダメ。

「ひゅっ、日向さん…っ、放して!もうっ、出る、出そう!ああ…っ」

 寸での所で口から放すと、根元から先っちょまで素早い動きで扱かれた。

「あっあっ…っ!!」

 もう今までに経験のない放出感。ピュ-ッってカンジで、俺は果てた。
精液が顎のとこまで飛んできて自分でも驚いた。こんなに飛ぶなんて…絶頂って、こういうことなのかな。こんなの、オナニーじゃ絶対味わえない。
体力には自信のある俺だけど、なんとも言えない脱力感でいつまでも息が上がっておさまらない。心臓は早鐘にように体中を打ち続けた。

また先にイかされてしまった。…悔しい。
 手足を投げ出したまま放心していると、日向さんがなにやら枕元のボードに置いてあるカゴをゴソゴソと漁り始めた。
「…なに?」
「いいもん見つけた。」
 そういってピンク色の小瓶を取り出して見せた。
俺はまだ息が整わず、ぼうっとした頭で日向さんの動作を遠い出来事のように眺めていた。
その瓶のキャップを開けると、大胆に手の中に垂らし始めた。トロリとした液体は手から溢れて、イッたばかりの敏感な俺の股間に降ってきた。

「わっ、な…なに?どうすんの?」
「足、開けよ。」
「え…」

 冷たい感触がナニの奥の、割れ目の部分に流れ込む。
ようやくこの小瓶がなんなのか、俺は理解できた。

「こないだはかなり強引に入れちまったからさ。」
「あ…」

 そ、そうだったかも。ツライってもんじゃなかった、アレは。酒のせいで痛みの感覚はちょっとはマヒしてたけど、それでも失神しそうなくらい痛かった。
ただ、日向さんとひとつになれたっていう感動と動揺でワケわかんなくなってたような…。
今日は酔っぱらってもないし、それに体があの痛みを知ってしまってるわけだから、はっきり言って怖い。

「今度はゆっくり慣らしてやるから。」

 ヌルヌルに濡れた指が、俺の一番恥ずかしい部分にゆっくりと割り入ってきた。

 俺は日向さんの手が好きだ。
陽に焼けてちょっとゴテゴテしてて、決してスマートな形ではないけど、手のひらにビールケースの握りダコがあって、左手の中指の爪の横に小さなホクロがあって、右手の甲にはおでん屋のバイトでつけたらしい火傷の痕がある。色が黒くて目立たないけど、うっすらと色素の薄いウブ毛も生えている。
こうやって目を閉じると細かいところまで脳裏に再現できる俺って、ほんとに日向さんのこと、よく見てんだな。
好きなんだよな…。
 その指が今、俺の中心をゆっくりと侵している。滑る液体の助けを借りて、奥へ奥へと入ってくる。
うう、やっぱりすごい違和感…。

「あ…っ」

 腰の内側あたりにうごめきを感じて思わず声が出てしまった。

「…痛いか?」

 俺は目を閉じたまま首を振った。すると中で日向さんの指がクイッと曲げられた。

「…っ」

 な、なに、今の…?
たった今イッたばかりだってのに、まだ萎えずにいた俺のモノから精液がトロリと溢れた。しかも、まだ出そう……。
初めて日向さんのを突っ込まれた時も、めちゃくちゃ痛かったんだけど、なにか、へんなカンジがしたんだよな。
男って、一度イッちゃったら打上げ花火みたいにそれでおしまい、みたいなとこあるけど、イッた後もなにかが残っているような‥。
あの時はもう痛くて痛くて気が遠くなってたし、はっきりとは思い出せないけど、多分今のカンジと同じだ。

「…若島津…俺、もう限界かも…。」

 指を突っ込んだまま日向さんが俺の太腿に股間をすり付けてきた。もうはち切れんばかりに勃起していて、触れただけでもずっしりと感じる。
ホント、日向さんのってデカい。こんなものがよくあの小さな部分に入ったもんだ。

「入れたい…入れてもいいか?」

 ゆっくりと慣らすように動いていた指が、急にせわしなく俺の中でかき回された。

「ああっ…う…っ」

 やば、また出そう…。急激な射精感に焦ってると、ぬるんとした感触で指が引き抜かれた。
一人でに体がビクンと跳ねる。指のあった場所が物足りなさを訴えてヒクついてるのが分かった。
俺って…入れられて感じる性癖なのだろうか。もしかして男同士のセックスに向いてる体なのかも…。
ちょっと複雑な気分に陥りながらも、思う存分に足を開かれて、日向さんのモノがその場所に突き立てられた瞬間、思わず口走ってしまった。

「は、早く …」

 …やっぱり俺って…インラン?

「く…ぅ…っ」
「あ…あァ…っ」

 痛い痛い痛い~~~~~~っ!し、死ぬ!!

「力抜けって、ば…!」
「わ、分かってる…けど…っ」

 あまりの痛さに涙が滲み出てきた。
俺のアソコは完全に日向さんを拒絶しているみたいだった。でもなんとしてでも受け入れたい…中はこんなに熱いのに。絶対日向さんをキモチよくさせてやれるのに。
転がっていたローションが手に触れる。俺はそれを掴んでキャップを開けると、そのままひっくり返して繋がりかけた部分に一気にぶっかけた。

「わっ!おまえ無茶すんなよ!」
「早く入れろよ。こないだみたいに強引にさっ」
「う…シラフなんだから少しは遠慮するよ、俺だって。」

 正直、先ッポがいつまでもそこで止まってんのが一番ツラいんだけど。
俺は痛いのを堪えて腰をうごめかしてみせた。ローションが若干染み込んで湿った音がする。それがなんともいやらしくて次第に興奮が高まってくる。

「くはっ…たまんねえ…!」

 腕をつかまれてシーツに押し付けられた。そして片足を抱え直すと、ズンッと腰を進められた。

「はあっ…はあっ…」

 かろうじて出っぱりの部分を飲み込むとほんの少し痛みが和らいだ。日向さんもムリな圧迫感から解放されたみたいで、フウと小さく息を吐いた。
こうなると今度は止めどない快楽の波が襲ってくる。さっき指で刺激された部分が疼いてしょうがない。早く、そこまで来て欲しい……。

「ん…っ、日向さん…。」

 自分でも恥ずかしいくらいの甘ったるい声。
いいんだ、もう。どうせ俺の本性はやらしくてエッチな奴なんだ。
格好なんかつけてないでセックスを楽しまなきゃ損だよな。

「す…すげえ…いい…。」

 しばらく俺の中で馴染むのを待っていた日向さんが、ゆっくり奥へと突き進んできた。下腹のあたりに日向さんの存在を感じる。
俺達は今、繋がってるんだ…。
何度か乱暴に揺すられたかと思ったら、日向さんが俺の胸に額を擦り付けて大きく震えた。

「アアッ…ッ…!」

 温かいものが腰の内側に流れ込んで…って、え?

「す、すまん…ア…っ」

 ビクビクと腰が痙攣して…日向さんは果てた…。

「ハアッ…ハアッ…クソ。」

 本気で悔しがってるサマが、なんていうか、カワイイ…。
脱力して胸の上で息を弾ませる日向さんの髪の毛を、そっと指に絡めてみた。真っ黒でごわついて見えるけど、意外と触り心地がよくて、つい妹をなだめるようなカンジでゆっくりと撫でた。

「…情けねえ。」
「……」
「もっとおまえを感じたかったのに……」

 こそばゆくなるようなセリフ。ああ、好き。大好き。

「もうしないんだったらさっさと抜けば。」

 つい意地悪なことを言ってしまう。ほんとはずっとこのまま繋がっていたい。ちょっと萎えてフンニャリした日向さんのが愛しい…。

「うっ、キツいなおまえ。」

 そう言って、目の前にある俺の乳首を人指し指で転がすようにいじる。

「ふ…」

 まるで下半身に直結しているみたいだ。なんでこんなに感じてしまうんだろう。思わず腰が浮いて、中の日向さんを締め付けてしまった。

「わ…っは、スゲ。」
「あ……」

 すると間髪入れずしんなりしかけていたモノが、またムクムクと大きくなるのが分かった。うわ、この圧迫感‥‥。入口の部分は相変わらずピリピリするけど、それを上回る快楽の予感が全身をよぎる。
再びゆっくりと日向さんの腰が動きだした。放たれた精液のぬるぬるとした感触と音が五感を伝って、俺達の性欲に油をそそいだ。

 体が溶け合ってひとつになったみたいだ。
どこまでが俺で、どこからが日向さんなのか、もうなにがなんだか分からない。
ベッドの軋む音と、二人の荒い息と、時折もれる湿った粘膜の音だけが、狭くて四角い殺風景な部屋に響く。
 いつのまにか俺はうつぶせにされ、腰を高く持ち上げられていた。後ろから深く突き入れられ、今までとは違った快楽の波に追い立てられていた。
これほどまでに感じるなんて…。
俺はどっかおかしいのかもしれない。男のくせに、入れられて死ぬ程キモチいいなんてぜったい変だ。
頭の隅っこではそう否定しながらも体は言うことをきかない。俺の中の性が暴走を始めて止められない。

「あ…んっ…んっ…ハッ…ひゅ、がさ…ァ」

 ギシギシという音の合間に聞こえてくるのは、自分のものとは思えない声。すでに何度か注ぎ込まれた精液が足を伝って流れ落ちる。俺はまるでAV女優にでもなった気分だった。
どういうシーンに日向さんは勃起するんだろう。どんな声を出せば今よりもっと興奮するんだろう…そんなことを考えながらつたない動きで日向さんのを締め付けた。

「ふっ…ハッ…わ、若…ッ」

 マラソンでもしているみたいな息遣いで激しく腰を揺らされた。

「あ…っ…クッ…若島津…若島津…」

 日向さんが腰を引くとちょうどその部分にあたる。それがたまらなくて、もうすっごいよくて、さっきからそれで何度もイかされた。
また、波が来たみたいだ…あ…っ、イキそう…。
最初のうちはティッシュを使って拭いたりもしていたけど、だんだんどうでもよくなってきて、俺たちの体はお互いの汗と精液でドロドロのグチョグチョになっていた。

 重なりあったままベッドに崩れ落ちた。もうダメ。もうムリ。
文字どおり精も根も尽き果てて、暫くの間俺達は動けなかった。背中で日向さんがハアハアと息を切らしている。肌に触れるシーツがあちこち湿っていてキモチ悪い。
コレ、自分で洗濯するとなると大変だな、なんてぼんやりした頭で考えた。

「体、平気か……?」

 後ろからのしかかった体勢で、腰から手を回して抱き締められた。

「ん……」
「若島津……」
「ん……」

 もう返事をする気力もなくていいかげんに返していると、チュウと左肩にキスされた。

「誕生日、おめでと」
「あ……うん…」

 そうだった。あまりの激しい性行為にすっかり忘れていたけど、今日で俺は15歳になった。嬉しいような、照れくさいような……。
うつぶせの体をどうにか起こして日向さんの正面を向くと「ありがとう」といって俺の方からキスをした。
軽く触れるだけのキスから、またしてもだんだんと深くなってゆく。ああ、キリがないな。でも、欲しくなっちゃうんだよな。
もう何回目だかわからないくらい、身も心も溶けてしまっているのに。
これで正月が終わって寮に戻ったら、俺達はどうなってしまうんだろう。果たして自制はきくのだろうか。
こんなふうに毎日求めあっていたら、正直言ってカラダがもたない。
でもきっと触れたくなってしまう。ホント性欲ってタチが悪い。
 体を擦り合わせながらしつこくキスを交わしていると、枕元に設置された電話器がけたたましく鳴り響いた。
タイムリミットを知らせる音だった。
 受話器を取ると機械の音声が退室10分前を知らせた。時計を見ると7時半だ。
いくら門限はないとはいってもそろそろ帰らないとヤバいかもしれない。俺達は顔を見合わせると「しょうがないな」と言ってのそのそと起き上がった。
腰から下が鉛のように重い。足の付け根はギシギシするし、膝もガクガクする。過酷な100本キャッチングをやった後だってこんなには疲れないのに。
日向さんに目をやると、さすがのあの人も腰をトントンしながらフ-ッと息を吐いた。俺は思わず吹き出しそうになった。
 とりあえずベタつく体をキレイにしないと、と二人して風呂に向かった。こんなに大きな浴槽があってもお湯を溜めて入る時間はなく、ちょっと勿体ない気がした。スケベ椅子も、ちょっと使ってみたかったかも、なんて。
すると日向さんも同じことを考えていて、肘でツンと突くと「コレ、今度使ってみようぜ」とニヤニヤしながら言った。
スケベなヤツ。…って俺もだけど。
ボディーシャンプーを思いっきりムダ使いして体中アワだらけにすると、水圧を最大にして全てを洗い流した。
とにかく急いで体を拭くと、急いで着替え、身支度を整えた。
 石鹸の匂いをぷんぷんさせながら、俺達は家路を歩く。
見慣れた町並み、見慣れた明和の風景。
だけど俺達はもう昔の俺達じゃない。なんていうか…ちょっと気恥ずかしい関係。
恋人同士とか、そんな甘い称号を求めて俺は日向さんと関係を持ったわけじゃない。ただ、性欲に忠実に。でも、その性欲を満たしてくれるのは日向さんしかいないのだ。
こんなふうに言うと日向さんは誤解するかもしれないけど…。
好きで好きでたまらなくて、体も欲しくて、想像していた以上にそれはキモチよくて、抱き合うことに最高の幸せと快感を得られたのは事実だ。
だからといって世の恋人同士みたいにベタベタしたい訳じゃない。
 こういうのって女には分かんないだろうな。
そんなことをつらつら考えながら、気がつくともう家の前まで来ていた。
いつもの曲り角のところで別れるつもりだったけど、誕生日だから送ってやると言われて素直にそれに甘えた。
ただ、ホテルに入る前みたく手は繋がなかったけど…。
セックスの後って、なんだかそういうのは照れくさい。

「4日には帰るだろ?時間とか、また連絡する」
「うん。…正月終わるまで多分会えないと思うし…その時に」

 言葉の途中で日向さんの唇が触れてきて、俺はそれを自然に受け入れた。冷たいけど暖かい。
あんなに淫らに体を繋げあった後だっていうのに、やっぱりキスはドキドキする。

「じゃあな、よいお年を」
「うん、よいお年を」

 そういって日向さんはポケットに手を突っ込んだまま軽い足取りで走っていった。
日向さんがいなくなると、上着を一枚脱ぎさったように体がブルッと震えた。

「おやすみ…日向さん」

 勝手口の戸をくぐって門の中に入る。引き戸をそっとなるべく音をたてないように閉めていると、今まで気付かなかった風呂場の灯が目に飛び込んできた。しかも…窓が開いて湯気がそこからゆらゆらと。
急に動悸が激しくなる。

「健……遅かったな」

 それは、父さんの声。
その声は心なしか震えていて、いつもに増して低くて険しい。
み、見られた…?
風呂場の窓から送られる無言の周波に、俺はブルッと震えた。
 早口にただいまと言い捨てると、逃げるように裏口のドアに駆け込んだ。

2006.1.25〜5.13  (お海老連載)