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ラストクリスマス
今日はクリスマスイブ。 選手権を数日後に控え、俺達サッカー部は世間のイベントごとなどには全く無縁の日々を過ごしていた。 寮に帰るとまず食堂に向かった。グラウンドでの練習を終えてのミーティングが長引き、いつもより小一時間ほど遅くなってしまったため腹ペコだった。 「理事長さんからのプレゼントですよ。寮にはツリーもないのかって驚かれて‥今日は朝から飾り付けにてんてこまい」 寮母のおばさんがあれこれいきさつを説明してくれた。厨房のそばでいつもかかっているラジオからは懐かしいようなクリスマスソングが流れていた。 「ワムのラストクリスマスだ。ウチの母ちゃんが好きでガキの頃よく聞かされたよ」 誰かが言った。 若島津が耳打ちした。 「へえ、豪勢だな」「ちっちゃなケーキだけどね」 おばさんが遠くから合の手を入れた。 「おばさん地獄耳だな」「健くんがニコニコ嬉しそうな顔してるから何喋ってんのかすぐ分かった。あんた甘いもん好きだもんね」 「そんなに好きなわけじゃないけど」 「カッコつけんなよ」 「べつにー」 わざととそっぽを向きながら若島津は鶏のからあげを頬張った。 「いいけど?じゃあラップかけてあげるわ。あとお皿は朝までに洗って返しといて」 「はーい。あ、二つね」 「なんだよ、わざわざ部屋で食うのか?」 「風呂に入って落ち着いて食べたいじゃん?」 「ふーん、そんなもんかな」 いそいそと二つの皿を大事そうに持って若島津は部屋に戻っていった。 「いいけどよ」 若島津はこの寒い夜に窓をあけていた。近寄ってみるとわずか15センチ程のベランダとも呼べないせり出しにケーキの皿を置いていた。 「天然の冷蔵庫。風呂上がるまでここで冷やしておこう」「さみーな。早く閉めろよ。部屋まで冷えちまう」 風呂に入り、点呼表に丸を付けるとそろそろ消灯という時間になった。 「アロマキャンドル。前に誰かにもらった。いい感じだろ?」 「女だろ」 「もう忘れた」 「そういうの、大事にとっとくんだ」 「何、やきもち?」 「バーカ」 俺の椅子を引いてどうぞと言うので促されるままに腰かけた。 「じゃあ、日向さん、メリークリスマス」「あー、うん。メリークリスマス」 デカい男二人がプラスチックの小さなフォークでケーキを突つき、東邦最後のクリスマスを祝った。俺よりもひと回り大きな手をした若島津が小指くらいのフォークを持って背中を丸めながら嬉しそうにケーキを食っている。 「うまいか?」「うん。日向さんは?」 「俺はー、甘いもんそんなに得意じゃねえからな。半分やるよ」 「ありがとね、付き合ってくれて」 若島津は幸せそうに笑って言った。時々香ってくるシャンプーやら石鹸やらの匂いに体中がこそばゆくなってくる。もうすぐ選手権だっていうのに、欲しくなる。大会が終わるまでは無しと二人で決めたのに、我慢がきかなくなりそうだ。 ふいに若島津が言った。 「一緒にいられるのは、今年が最後かも‥‥」「んなことねえだろ。どこにいたって会おうと思えばいつだって会えるさ」 「そうかな…」 「なんだよ。おまえはその気がねえみたいだな」 「会いたくなったら会いに行ってもいいの?」 「あたりまえだろ。俺はこれからもずっとおまえのことを…」 その先を言うとそういうムードになりそうで俺は言葉を止めた。 「ねえ、日向さん…今日はあの、決め事…」 「いや、なんでもない。…お開きにする?火災報知器鳴ったらヤバいよね」 半分も溶けていない蝋燭を吹き消すと、部屋は一気に暗くなった。俺達はそのまま動かずに、豆電球の灯に目が慣れるのを待った。 いつのまにか目は慣れ、若島津は俺の視線を捉えていた。慌てて目を逸らそうとすると、そっと若島津の手が腕に触れた。 「……」俺達はどちらからともなく顔を寄せた。 「…甘い」「……」 一瞬の合間に一言だけ囁くと深く唇を合わせて来た。いつになく積極的に舌を絡ませてくる若島津に体が熱くなる。これ以上はヤバいと思った時、ぼやける程の至近距離で若島津が言った。 「今日はガマンしたくない」 もう止められなかった。担ぐように若島津をベッドに押しやると一分の隙もないくらいに抱きしめた。何度も何度もキスをしながら忙しなく互いの体をまさぐる。脇腹を直に撫でると若島津がブルッと震えたので踏んづけていた布団を力ずくで剥がし頭からすっぽりと被った。布団の中で次々に服を脱いで真っ裸になり、体を擦り付け合いキスをして、そして繋がった。 「おまえがいいんなら、俺は…嬉しい」 「柄にもなく浮かれてしまった。俺、ムードに弱いみたい」 そう言って若島津は笑った。乱れた髪や少し疲れたような目元が妙にそそる。行為の最中、昇り詰めた時の表情がふと重なった。 「物足りねえか?」「え?」 「俺といても、ムードとかそういうの全然ねえから」 「…バカ」 クスクス笑って若島津が覆いかぶさってきた。 「そういうとこが好きなのに」 軽く触れるだけのキスをする。こういうふうに戯れてくる若島津は本当に珍しい。首筋に顔を埋めて、もっとしていいよと囁いた。
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2009年9月5日