|
妄想日記 7 バレンタインに告って一か月。 あの日はとにかく騒がしくて、周りではチョコやら手紙やらが飛び交い、モテる奴は朝からひっきりなしに方々から呼び出され、休み時間に便所に行く暇もないほど。 部活帰り、カバンの中一杯に溢れるチョコの山を抱える若島津を見るにつけイライラとモヤモヤでおかしくなりそうだった。 そこがどこだったかの記憶もない。 そう言ってアイツはカバンごと、カラフルでうるさい包みどもを地面に放り投げたのだ。 「…」 今度は何も言わず、散らばったものをカバンに詰め込みながら拾い上げた。 「…帰るぞ」「…はい」 この話はこれっきりだ。続きはない。 女子共の祭に比べ、ホワイトデーってやつは地味でいい。 そこらのコンビニでも、ひと月前の派手なディスプレイとは対照的と言ってよいほど静かなもんだ。 そのせいという訳でもないが、お返しをしなければという意識は低い。そもそも一方的に向こうからやってくるのだから、そんな義理もないのだが。 元々イベントごとには無頓着な俺にとっては、今日もいつもと変わらないただの土曜日だ。 そして、若島津もいつもと変わらない。 あのピンク色の喧噪にまぎれて好きだと言ってしまってからも、俺に対する態度は全く変化なしだ。 有難いと言えばそうなのだが、俺の告白がアイツの心のはじにも引っかからなかったのかと思うと複雑だ。勢いで言ってしまってスッキリするような簡単な思いでもない。軽くスルーされて落ち込まない程頑丈でもない。だからと言ってアイツに返事を求める勇気もないから質が悪い。 若島津が普段通りに接してくれることに救われている自分が情けない。 部活が終わり、部員達が掃けた後もちょっとだけボールを蹴ってグラウンドを後にした。 数人のうちの一人が歩み寄ってきて話しかけてきた。 「私のこと、覚えてないんですか?ここで渡して、ちゃんとありがとうって受取ってくれたのに…」 「ねえ、今ここで返事もらえないかな。この子本気なんだよね、マジであんたのことファンで応援してて──」 後ろから援軍が詰め寄ってきた。かなり押しの強い口調で苦手なタイプだった。 突然背後から柔らかい、それでいて突き刺す矢のような声が俺を救護した。 「悪いけど、そろそろ門限なんだ。ごめんね、はっきりしない人で。諦めてくれる?」 声の主はそう言って俺の腕を掴むと、寮めがけてダッシュした。 「…馬鹿じゃないの。なんで手紙受け取ったりしたんだよ」 「え、いや…それがその…ほんと記憶なくてよ。無意識っていうか」 そうだ。あの時はモテまくる若島津の方が気がかりで、自分のことを構ってる余裕がなかったのだ。 「おまえだって受け取ってたじゃねえか。だから俺は…」焦って告った。馬鹿だった。 「俺はその場でちゃんと断ってた。気持ちは受け取れないって」「そ、そうなのか…」 「ちゃんと、好きな人がいるからってはっきり、一人一人に」 「え…好きな…?」 「俺…うんって言ったよね。あの時」 若島津の言わんとしていることがなかなか素直に頭に入らない。それはたぶん、コイツが背中を向けたまま呟く声が不機嫌だからだ。俺を責めて、非難しているように聞こえるその声に、思考が縮こまる。 「もうちょっと自信持てば?キャプテンなんだからさ」「自信…持てって言われてもよ…あの、えーと…、すまん。おまえの言うことがよく呑み込めねえっていうか」 「言っとくけど、あんたにコクられたから腹を決めたわけじゃない。俺は元々、…元々だから」 「へ…?」 「あんたにくっついて東邦来た頃から、ヨコシマな気持ちもあったってこと!ここまで言わないと分かんないのかよ…」 溜息まじりにぼやきながら、振り向いた若島津の顔は呆れたふうに笑っていた。 若島津が俺の手を握った。腕じゃなく、手のひらを取って。 「ふん…ビビってたくせに」 「ぐっ…慎重派なんだよ、俺は!」 クスクス笑うアイツに、もう一度好きだと言った。一ヶ月越し、ダメ押しの告白。
|
2009年3月14日